タクシーと税金の話

 タオルミーナのイタリア語学校「バビロニア」を2週間で「卒業」した。(上の写真が看板で、下の写真が教室の入口)
 最初の1週間は、米国の熟年女性2人と、フランス人女性(シャーロット)と同じクラスだった。次の1週間は、ブラジルの熟年女性2人=写真=と若いブラジルのお兄さん、英国紳士、そしてシャーロットの6人となった。
 母語がポルトガル語のブラジル人たちの会話の速さと発音の難解さに、たじろぐ毎日だった。英国人も単語の意味の理解に苦しんでいたが、同じアルファベット文化圏、やがて、類推しながら、授業に馴染んでいった。シャーロットはフランス語とイタリア語の発音の違いに苦しみつつも、理解を深めていた。

 漢字文化圏の僕はといえば、ABCに馴染んだ人たちに太刀打ち出来ず、実際のところ冷や汗の毎日だった。

 とりあえずヒアリング力を鍛えなければ、と今週から旅をしながらの実践編となった。ところが、最初に、とんだ間違いをしでかした。

 ホテルの精算の後、タクシーを呼んでと、フロント係に言った。

 イタリアでは「taxi」が「タッシ」と聞こえる。フロント係のアントニオは「タッシはカードで払うか、現金か」と聞いてきた。なるほど、タクシー代はホテルで前払いするのだと思って「カードで払う」と言い、14€を支払って領収書をもらった。「タッシは外にいる、すぐに行け」。

 外に出るとまもなくタクシーがやって来た。タオルミーナの街は標高200メートルにあるので、海岸沿いにあるタオルミーナ駅までは急坂を降りなければならない。ローカルな話で恐縮だが、わが故郷長崎のランドマーク稲佐山の中腹ホテルから、長崎駅に行くみたいな感じだ。

 15分ほどで駅に着いた。荷物を下ろすと、タクシー運転手が20€と言ってきた。

 えっ? L'ho già pagato in hotel.
それはすでにホテルで支払ったと言って、14€の領収書を見せた。怪訝な顔をする運転手。
 二重取りしようとしてるな。僕は警戒を強め、駅前で言い争った。すると若いイタリア人カップルが近寄ってきて、僕の領収書を見てこう言った。

 「questa è tassa」
 タッサ? 何?

 すると大学生っぽいイタリア女子の方が
「this is tax」と英語で言った。タックスならわかる。税金のことだ。タオルミーナ市がホテルから徴収する観光税だった。ホテルの精算とは別に徴収するしくみになっていた。そんなことは知らない。

 taxi(タッシ)とtassa(タッサ)は同じに聞こえた。

 ホテルのフロントのアントニオは、税金はカードで払うか、現金で払うかと聞いたのだった。タクシーを頼んでと言った直後の会話だっただけに、てっきりタクシー代と勘違いした。

 タッシとタッサ。トッサにはわからない。
 僕はタクシー運転手にスクージと謝りつつ、20€支払った。旅は長い。タオルミーナ駅からカターニア駅を目指した。
 

定年後、荒野をめざす

五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)

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