結局、エトナ山のピークには行けなかった。タオルミーナで頼んだアテンドからのメールの返事はこうだった。
♦︎♦︎♦︎
過去 2 年間、一連の爆発現象のため、頂上のクレーターにはアクセスできません。 エトナ山を訪れたい場合は、1900 メートルまで 1 日で行くことができます。
♦︎♦︎♦︎
「シチリアアクティブツァー」という会社からの返信だった。タオルミーナに20年間住んでいる日本人女性によると、エトナ山は最近、1ヵ月に延べ3日間は、噴煙を巻き上げているという。そういう日は、車が汚れるそうだ。桜島を間近に抱える鹿児島市でもよく聞く話である。2013年にはタオルミーナの街にも噴石が舞い散ったそうだ。
そして、1年半前にも大きな噴火があった。YouTubeから拝借したのが下の写真。アングルを見るとタオルミーナから写しているようだ。
噴火の危険があるなら、どうしようもない。しかし、ここまで来たら、1900メートル付近まででも行ってみたい。
ネットでエトナツァーを予約したら、wahtsapp(ワッツアップ)のアカウントを送ってくれときた。昔なら、電話番号を教えてと言われ、そこに確認の電話がかかってきたものだが、今次の世界同時SNS社会では、そんな人件費のかかることはしない。エトナに登る前に、ネットの山を越えなければならない。
ワッツアップ? そんなの、持ってないし。LINEならヘビーユーザーだけど、海外に出るとLINEは日陰者である。欧米の人はほとんど使っていない。みんな、ワッツアップなのである。
AppStore でワッツアップとかいうのを探して、アプリを入れた。恐る恐る登録していくと、電話番号を求められた。日本で使っている携帯番号を入れると、高額請求が来るのじゃないかと不安になる。さて、どうしたものか。こういう時が、旅で一番不安になる。
そうだ。SIMカードの電話番号を入れたらいい。期限1ヵ月のシムカードを30€で買い、日本の携帯会社のSIMカードと入れ替えていた。SIMカードとは、その国のスマホをレンタルするみたいなものである。モンゴルでもインドネシアでも、まず空港に着いたらSIMカードを買って入れ替えた。両替するみたいな感覚である。
で、SIMカードには電話番号が付随している。その番号をワッツアップに入れたら、直ちに先方とチャットでつながった。
エトナ登山の話が、だいぶ脇道にそれてしまった。
ワッツアップでつながると、とても便利だ。アテンド会社から待ち合わせ場所の写真が送られてきた。これは、ホテルの前ではないか。なんと、便利な。
4日朝8時半、写真の場所に立った。やがて、ワゴン車が止まり、マッシモという長身の男が降りてきた。ハローと言った後、ボンジョルノと言い換えた。「あんたは何人(なにじん)か? イタリア語と英語のどっちを使う?」と聞いてきた。
「僕は日本人、イタリア語でお願いします」と言うと、バベーネのあと、マッシモは矢継ぎ早にしゃべりかけてきた。全くわからない。「アスペッタ、アスペッタ、パルラ レンタメンテ」、待って、待って、ゆっくりしゃべってと言うと、勢いは収まった。僕はこの街でイタリア語の勉強をしているところで、あまり多くの単語を知らないと言うと、親切にゆっくりと話してくれた。
車に乗った。登山のアプローチまで、今日の客を積みながら向かうという。何人乗るのか? と聞くと8人という。座席の数を見ると、どうやら満席になるみたいだ。
タオルミーナの隣町で2人のルーマニア人夫婦を拾った。次は3人のカリフォルニアギャル。登山の格好じゃないのが、気になった。9時8分、ドイツ人の熟年女性2人を拾う。合計8人。
やがて、マッシモが訛りのきいた英語で観光案内を始めた。そのあと、僕のためにイタリア語で説明を加えてくれた。
まずは、ヘルメットをつけて洞窟に潜った。冷やい。溶岩が作った洞窟で常に水が沸いている。エトナ山の伏流水が貴重な水資源になっているのだそうだ。
↑ 懐中電灯で照らしながら説明するマッシモ。
↓ 樹林帯を歩きながら、木の名前や生息する動物の名前を説明するマッシモ。
標高1900メートルのサポナリア山(写真中央)を目指してツアー客は進んだ。ほかのグループもたくさんいる。どう見ても、海水浴客がハイキングしているようにしか見えない。標高が高いと言っても気温は20度は超えている。直射日光もきつい。持ってきたダウンなんか着る状況ではない。
噴火口で記念撮影するグループもいた。
エトナ山のピークは、ここから1400メートルの標高差がある。登れそうな気もするが、突然の噴火はやはり怖い。とりあえず、マッシモに写真を撮ってもらって下山した。
最後にアルカンタラという渓谷に立ち寄った。滝があり、冷たい水が流れ、水泳場にもなっている。中に入ったら5分といられない。水温は7度だった。そして岩肌の柱状節理。ブラタモリで来たら、きっとタモリは興奮するに違いない。
これはミケランジェロの作品かと思うぐらい美しい岩肌があった。しかし、作家は地球であり、絵筆はエトナなのだ。↓
最後は運転手のマッシモがそれぞれの宿に送ってくれた。その間、ずっと口笛を吹いていた。クイーンの曲だ。音程が常にずれていたのは、まあ、愛嬌としよう。ツァー代はしめて70€。
定年後、荒野をめざす
五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)
0コメント