シチリアで最も古い街、シラクーザの駅で寝台列車に乗った。ここは終着駅であり、始発駅である。現在、5月23日21時32分。13分後に出発するはずだ。
長旅になる。これから、1070キロを鉄道で移動する。乗り換え2回、プーリア州のレッツェを目指す。まずは、ナポリの近くのサレルノまで。670キロの汽車旅が始まる。
この列車は、海を渡る。メッシーナという港町で4両編成の汽車ごとフェリーに載せて海峡を渡り、イタリア本土のカラブリア州へ行く。寝台は4個が一組になっており、同室の男性に聞くと、そこで2時間を費やすという。船からの眺めはどうかと聞いたら「ネッロ」と言われた。
黒。闇の中、景色は見えないそうだ。待てよ、昨日は満月。月の光がメッシーナ海峡の海に映るかもしれない。
ドビュッシーの世界を満喫しよう。
汽車は珍しく定刻で走り出した。
定年後、荒野をめざす
五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)
0コメント