前回、「ナポリへと飛ぶ」と書いた。その舌の根も乾かないうちに、プーリアで書き残したことを思い出した。
舞台はバーリ、プーリア州の州都である。6月1日夜、10人のグループ旅行の一行と別れ、バーリ中央駅近くのホテルに泊まった。他の面々は、バーリ空港から帰国の途についた。飽食の9日間だったため、晩飯は抜いた。キオスクでナストロの缶ビールだけを買ってホテルに戻り、手動開閉式のエレベーターで3階に上がった。
やれやれという感じで、プシュっと缶を開けてゴクゴクと飲み干すつもりだった。喉が乾いたとき、ビールを買うと、その一口の瞬間をイメージしながら、舌なめずりする時間が尊い。
ところが、このナストロ、プシュっと言わず、プルタブが折れた。開け方を間違ったか? いや、丸い輪っかを、きちんと引っ張った。なのに、ポキリと折れてしまった(写真上)。缶の上部にわずかな穴があるので、口をつけたものの、液体は出てこない。
19世紀にロンバルディア州で創業したペローニ社のホームページに書いている通り、「絶妙にバランスの取れた苦味と柑橘系の香り」
を楽しみたかった。イタリアのビールでは、メッシーナと並ぶほど好きな銘柄なのだ。
缶ビールの蓋が開かない状態は、心身によくない。ふと、洗面台の歯ブラシに目が止まった。
これだ。机にタオルを敷いて、ナストロ缶を載せ、歯ブラシの柄を缶の蓋に突き立てた。意外に強靭なアルミ缶である。叩き続けること6回。ようやく、泡があふれ出した。
大阪で通っているイタリア語講座の先生が、バーリ出身なので、この写真をラインで送った。丁寧な返事が来た。
イタリア語で歯ブラシを、spazzolino (スパッツォリーノ)と言うことを覚えた。歯を磨く以外に、イタリアの缶ビールを開ける際に役に立つことも。
定年後、荒野をめざす
五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)
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