フォッジアの少年少女

↑ インターシティの列車は、プーリア州の州都バーリを、午前7時5分に発車する
イタリア鉄道の列車なら、1カ月間で10回乗り放題というTrenitalia Passを、出国前にネットで買った。324€だった。円安なので、5万5千円とかなり高くついた。しかし、半島縦断を試みる身にとって、実際、使ってみると、とてもコスパがいいことに気づいた。

シチリアからプーリアという辺境から辺境を結ぶ旅は、寝台列車とフレッチャロッサ(日本の新幹線)を乗り継いだ。約1000キロ、16時間の旅は、パスを持っていたから0€。本来なら2万円以上はかかる値段だ。寝台特急だったため、ホテル代も節約できた。

プーリアのバーリからナポリへもパスを使った。こちらも0€。ただし、フレッチャロッサよりは格下のインターシティしか走っていなかった。

バーリで朝の7時5分発の列車に乗った。
空き空きの車内。静かに列車は走り出し、ナポリまでの4時間、文庫本でも読んで過ごそうかと思っていた。

ところが、安寧はフォッジアの駅で破られた。少年少女たちのバカンスか、大人10人を含む約30人の集団が乗り込んで来た。突然、小学校の休み時間の教室に放り込まれたような状態となった。指定席のため、僕の前後左右を含む大部分が、彼らに占有された。

子どもたちは、ついに隠れんぼを始めた。
大人の男たちは、濁声で話に熱中し、指笛を鳴らすものもいる。スマホで話し続ける男。大人の女たちは4人がけのブロックに座って、お菓子を食べながら、ペチャぺチャ話している。走り回る子どもを、大人の誰も注意せず、車掌も、笑みをこぼしながら通り過ぎて行った。
Rumoroso! うるさい
Noioso! うっとおしい
のイタリア語は、ここで覚えた。

ナポリまでの残り時間を気にしながら、洗濯機の中で揉まれ続ける靴下のような気分になっていた。「静かにしてください」と言えない自分が情けなかった。日曜日のインターシティは、隠れんぼOKなのかもしれない。

ただ、イヤフォンを持参していたのが功を奏した。お気に入りのジャズメドレーをかけて、外界を遮断した。チャーリーパーカーの「I can get started(言い出しかねて)」がたまたま流れて、苦笑してしまった。

イタリア鉄道の1カ月パスは便利である。ただ、インターシティより、フレッチャロッサを選ばれることを、お勧めしたい。


Buon viaggio!


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定年後、荒野をめざす

五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)