ブドウの収穫

 Vendemmia.
 ベンデンミャと発音する。ブドウの収穫という意味である。「ブドウの収穫」という作業のために、特別の単語が用意されている。そのことだけで、イタリアという国がいかにブドウを大切にして来たかがわかる。

 シチリアの赤ワイン「エトナロッソ」を出されたら、腹ペコの犬のように落ち着かなくなる。この赤を飲むと、キャンティさんにもバローロ君にも、「今はいいから、外で待っててくれる」と言ってしまうだろう。

 その主要ブドウ、ネレッロマスカレーゼの畑に連れて来てもらった。背景にエトナ山。たわわに実ったブドウたちが、Vendemmia を待っている。

 タオルミーナのイタリア語学校の紹介で、在住20年の日本人アテンド智子さんに連絡を取り、彼女の車でこの畑に連れて来てもらった。エトナの東山麓、標高約500メートル付近にあるカンティーナ(ワイン醸造所)で、Murgo という名前のワインを送り出している。
 先入観とは怖いもので、ワイン用のブドウは苦くて食用には適さないと思っていた。このマスカレーゼを一つ拝借した。これが甘いのだ。スーパーで売っててもおかしくない。スマヌスマヌと言いながら、2個目もいただいた。

 智子さんによると、Murgo は、シチリア貴族の土地で、19世紀から栽培が始まったという。エトナの山麓は「もともとワイン生産が活発だったところですが、エトナロッソが世界的に評価されるようになったのは、北部や中部イタリア、ベルギーなどから醸造家がやってきた2000年代以降のこと」なのだそうです。

 醸造所の中に入ると、どでかい栗の木と、ステンレスの樽があった。
 ステンレスタンクに走り書きのようなメモが貼ってあった。1リットル1•6ユーロ。一瞬キョトンとした。ネレッロマスカレーゼが1リットル230円なのである。ステンレスタンクにはホースがついていて、地元の人たちはペットボトルに注いで買って帰っていた。
 Murgo の畑には白ワインのカタラットも実っていた。こちらも摘んで食べると実に甘い。エトナ火山が噴き出した熔岩で育つブドウたちは、どうやってこのゴツゴツした塊の土地から甘みを引き出すのだろうと不思議に思う。9月15日からVendemmia が始まると聞いた。エトナで最も忙しい季節が迫っている。

 現地に行かないとわからないことがたくさんある。もう一つ、常識が覆されたことがある。赤ワインは肉、白ワインは魚と、合わせる料理の王道がある。ところが、エトナロッソは魚介にピッタリと合うのだ、これがまた。後日、ボンゴレパスタと合わせて飲んだ。シチリアのアサリにエトナのブドウが絡みつき、至福の境地に。

 四里(16キロ)以内で採れたものを食べることが健康の秘訣と、江戸時代の学者がのたまっておられたが(確か貝原益軒かな)、シチリア人たちの長生きの理由がわかるような気がした。

定年後、荒野をめざす

五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)

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