蜃気楼、そして砂嵐

  ウランバートルから南へ1時間半ほど飛ぶと、そこは砂漠だ。ゴルバンサイハン空港がゴビへの玄関口に当たる。

 そこから西へ車で向かった。草原に幾筋も伸びる轍を頼りに、運転手はトヨタのワゴン車を飛ばした。

 中国国境のある南に山脈が連なるが、そのほかの三方はひたすら地平線だ。砂漠といってもこの辺りは点々と草の生える平原である。20センチの至近距離でスマホ画面ばかり見ていた目は、常に数十キロ先を見つめ続け、視野の広がりに両眼がヨロコンデいる、みたいだ。


 初めての体験を四つした。

 蜃気楼を見た。それは、宮崎駿のアニメ「風の谷のナウシカ」に出てくるユパ様が、ラクダのようなクイとカイを連れて走っているような光景だった。


  本当の遊牧民を見た。モルツォグという砂丘でラクダ70頭を飼い、5人家族でゲルに暮らしていた。7歳、15歳、19歳の息子3人がいる母親のオユナさんが、ラクダのヨーグルトをご馳走してくれた。酸っぱさが半端ではない。日本で溜め込んだ腸内の悪玉菌たちが一掃された感がある。

  そのフタコブ駱駝に乗せてもらった。40センチはありそうな前のこぶを抱いて、後ろのこぶが背中を支えてくれる。目が可愛い。グリーン車のバケットシートに座って、ちょっとした上から目線気分も味わった。20-30分のショートトリップで15000トゥグルク、700円ぐらいだった。

  駱駝を降りたちょうどその時、砂嵐がやってきた。まるでスコールに襲われた感じだ。目を開けていられない。右往左往している僕の横で、駱駝たちは、ゆったりと座って全く動じない。ゲルへ駆け込んでようやく難を逃れた。アラビアのロレンス、風とライオンといった洋画のシーンを思い出した。
↑ オユナさんが振る舞ってくれた駱駝ヨーグルトと駱駝チーズ
↑ ゲルの内部。オユナさん(中央)が駱駝の毛で作ったぬいぐるみを見せてくれた。左はモンゴル国文化大使の佐藤紀子さん
↑ ゲルと少年
↑ オユナさんが引っ張る駱駝に乗った。降りる時、ガクッとひざまづくラクダくんに振り落とされないよう注意が必要


  砂漠は穏やかなようで突然、進行方向のわからない砂塵が舞う。毒ヘビがいて、毒グモも生息する。そして、夜はぐっと冷え込み、体温を奪う。

 ゲルはそうした難渋から牧民たちを守ってくれる最適の住処だ。
 
 オユナさん一家は冬が近づく10月には、20キロほど離れた南斜面の土地へ移り住むという。70頭の駱駝を連れて。


  宿舎のジュールチンゴビのゲルキャンプへ戻ると、まもなく西の草原に太陽が沈んだ。

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定年後、荒野をめざす

五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)