4日深夜、砂漠で1時間ほど寝た。月のない闇夜であるはずが、なんという明るさか。
星の密度が濃い。例えば、北極星の周りは意外に星が希薄だ。独立峰のように輝くこの二等星の周りに、こんなにたくさん星があったのかと驚いた。
日本にいると、地上近くの星たちは人工の光で消されてしまうが、人工の光のない砂漠では、地平線に横たわる星たちがなんとクリアなことか。地上すれすれに顔を出したさそり座のアンタレスは、さながら宵の明星のよう。視界に入る空の全てが星という世界にいると、このまま大地に含まれてしまう気持ちになった。
だが、モンゴルの牧民たちはこれが日常なのだ。
慣れてくると、その単調さに気が触れまいかと心配してしまう。
村上春樹は小説「国境の南、太陽の西」で、モンゴルとは違うが、同じ広大なシベリアの農夫がかかる病気の話を書いていた。見渡す限り、周りには何もない。毎日、畑を耕して生きてきた農夫の中で、ある日、何かが死ぬ。農夫は鍬を放り出し、太陽の沈む西へ向かって歩き出す。
ヒステリア・シベリアナという病気だそうだ。
毎日の満員電車、会社での単調な作業、狭い部屋、密度の濃い日本の都会の人間社会でも、鍬ならぬスマホを捨てて歩き出す衝動に駆られる人が多いのじゃないか。
ヒステリア・ジャポネーゼから解放されたい人は、ゴビの砂漠で目を開けて寝ることをお勧めしたい。
↓ ゲルキャンプのスタッフ女子たち
関空→ウランバートル空港
4時間半
ウランバートル空港→ゴルバンサイハン空港
1時間半
ゴルバンサイハン空港→ジュールジンゴビキャンプ
車で45分 宿舎70ドル
↑ 南ゴビのジュールジンゴビキャンプは、空港から車で45分。朝5時、日本の方向から陽が昇る
定年後、荒野をめざす
五木寛之の「青年は荒野をめざす」に感化され、22歳の春、旅に出た。パキスタン航空の格安チケットを手に入れ、カリマーのアタックザックひとつでアジア、ヨーロッパをさすらった。そして再び、旅心に囚われ、36年間勤めた新聞社を辞め、旅に出る。(中村 正憲)
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