遠くからそのホテルを見たとき、1960年代のアメリカ映画「猿の惑星」のラストシーンの記憶がよみがえった。波打ち際で傾いた「自由の女神」像のように、インドネシアバリ島のリゾートホテルは朽ち果てていた。
10月10日、グラライ国際空港から北東へ約30キロのシュットビーチを訪れた。ディアナプラ大学の講師シディ・トルカ―さん(60)の案内で敷地に入った。海に突き出したリゾートプールは斜めに傾いて崩れ、3階建てホテルの天井パネルははがれ落ち、駆体を支える鉄骨がねじ曲がっていた。
When I saw the hotel from a distance, the memory of the last scene of the 1960s American movie "The Planet of the Monkey" was revived. Like a statue of Liberty leaning on the beach, the resort hotel in Bali Indonesia has decayed.
On October 10, I visited siyut Beach, about 30 km northeast of Gralai International Airport. I entered the site under the guidance of Mr. Sidi Torukar (60), a lecturer at Dianapura University. The resort pool that protruded into the sea tilted and collapsed diagonally, and the ceiling panel of the three-story hotel fell off, and the steel frame that supported the fuselage was twisted.
「アランアランバンブーホテル」は、1997年に開業した。当時は、最上級のリゾートホテルとして多くの観光客でにぎわったそうだ。ホテル前のビーチは砂浜が延々と続き、ハネムーンカップルの絶好の撮影スポットになっていたという。やがて、海面上昇でビーチが消え、プールが破壊された。そして2004年、ホテルはわずか7年で営業をやめた。
ホテル脇の小さな売店小屋の前で、女性がココナツヤシの葉でヒンドゥーの儀式用の飾りをつくっていた。名前はイブジェロ―さん(52)。夫と子供4人の6人で暮らしている。1ヘクタールの水田でコメを作っていたが、海面上昇によって砂と塩水をかぶった。耕作放棄し、今は祭祀の飾りや飲食物を売って糊口をしのいでいた。
「ここにはとても美しくて長い浜辺があった。あのころから、海はどんどん近づいてきた」と彼女は言った。売店のすぐ近くに海岸浸食の注意を呼びかける看板が立っていた。写真を撮らせてもらうと、イブジェロ―さんは「来年はこの看板も危ないかもしれない」と言い、少し笑った。
トルカ―さんは、浜辺の後背地を指さし、「ビッグライスフィールド」と言った。40キロにわたって長い砂浜が続き、一帯は水田地帯だったという。どう見ても荒野だ。耕運機に乗って作業している農夫がいた。今はトウモロコシしか育たないそうだ。
トルカ―さんは「浸食は温暖化による影響だろう。干潮線は5年前に来た時には50㍍先にあったが、いまは5~10㍍ほどまで迫った」と話した。
地球温暖化による気候変動はまず、波打ち際から押し寄せてくる。そして、そこで生計を立てていた人たちを貧困に陥れている。英紙「ガーディアン」は今年5月、地球温暖化という言葉を「地球炎暑化」に変えた。「気候変動」は「気候危機」と呼び始めた。バリ島のビーチでその言葉の正しさを実感した。
↓ 波打ち際で傾いたヒンドゥー教の寺院の一部
映画「猿の惑星」の「自由の女神」像は、核戦争によって破壊された姿だった。核攻撃は広島、長崎で起きたことのように一瞬で町を破壊し、多くの命を奪う。いま同じようなダメージが、地球上の各地で進んでいる。それは極めてゆっくりとしたスピードだが、確実に。
0コメント